「チャンク」から
そこからどんどんさまざまな表現に触れていきましょう
居村 啓子
拓殖大学外国語学部教授
キソサポにも多くの動画が収録されている「小学生の基礎英語」シリーズ。
アイクと花音が繰り広げるコミカルな会話を、音声と4コママンガで楽しみながら英語に親しむことができるコンテンツとして人気です。もともとはラジオ番組で放送されているコンテンツをキソサポ用に再編集しました。
ラジオ番組「小学生の基礎英語」に講師として出演し、キソサポにそのコンテンツを展開するにあたっても、さまざまな点でご尽力いただいた居村先生に小学校の英語教育についての「ヒント」を伺いました。
「音声」から始める英語学習
■初めて英語を学ぶ児童たちに対して先生が心がけるべきことは何でしょうか?
小学校の英語教育というのはまずは音声言語から入るというのが基本になります。現在小学校の多くの英語の授業では「言語活動」が主体となっています。音声を中心としたコミュニケーションが活発に行われるには、色々なポイントがあると思いますが、まず小学校の英語の授業で児童の発話が「単語」だけになっていないか、という点に着目したいと思います。例えば先生が、What time do you wake up?と聞いて、生徒がSeven.と答える場面は良くあると思います。初期の段階ではもちろん、これでOKですが、「単語」のみのアウトプットでは、その先への橋渡しが難しくなります。I wake up at seven.という、まとまりのあるフレーズでのアウトプットができると、その次に、I go to school at eight. I go home at three.のような発展形に進化させることができます。
2語以上のまとまった表現を「チャンク」とも言いますが、この概念はこれまでの日本の英語教育では、あまり重視されていませんでした。文法+単語を駆使し文をつくっていくという考え方が主流だったからです。でも、どこか日本人の英語は不自然だと思われることがこれまで多かったのではないでしょうか。「チャンク」にはcollocation「コロケーション」つまり、ことばとことばの相性が含まれているので、チャンクを上手く使いこなすことで、自然なコミュニケーションにつなげることができます。また考えなくても出てくるという「自動性」、そしてなめらかに発話できる「流暢性」を促すことができるとも言われています。
■「チャンク」を意識した指導というのは具体的にどのようなものなのでしょうか?
「チャンク」を教える際は、まずチャンクの基本形をインプットし、慣れ親しませましょう。リズムや歌にのせて、繰り返すのも効果的です。定着したら、入れ替えられる部分「スロット」を示して、新しい表現をつくります。I want to go to Germany.であれば、まずGermanyをスロットにして、行きたい国を入れ替えます。慣れてくれば、I want to eat ~.やI want to try~.などの表現に発展させることもできます。このように「チャンク」は生きていて、いろいろと変化させながら、より自由度の高い発話を促すことができます。
また「チャンク」は常に「場面」と密接につながっているという特徴もあります。いつ、どこで、だれが、なんの目的で、という場面を上手に設定し、それにふさわしい表現を使うことが大事になってきます。コンテクストから切り離すのではなく、常に文脈の中で紹介していけると良いと思います。例えばラジオ番組「小学生の基礎英語」では、リスナーにチャンクを使って会話に参加してもらうように、毎回場面を設定しています。例えば、I don’t have ~.というチャンクの場面を考える場合、まずI don’t have~.と言いたくなる場面を考えていきます。ある回では、「キャンプに行くので、誰が何を持っているか確認するよ。」という設定にします。A:I don’t have a lamp. B:I don’t have a tent. それじゃキャンプに行けないね。というオチになっています。授業でも楽しい場面を子供たちと一緒に考えて「やり取り」を生き生きとしたものにすることができるでしょう。
■実践するうえで気をつけるべき点があれば教えてください。
児童に発話させる際、「単語」ではなく「チャンク」で、を常に意識させると良いと申し上げましたが、それには、完全に言えるようになってから使わせる、という完璧主義にせず、間違えても良いので繰り返しアウトプットさせることが大事です。言語の習得過程でおこる「間違い」は大事な発達の段階で、アウトプットしてみてはじめて、自分が言いたいことと言えることの「違い」に気づく絶好の機会とも言えます。言葉を学んでから使うのではなく、使いながら学ぶ、という姿勢が大事です。
キソサポを活用した「チャンク」学習のポイント
■先生が担当されている「小学生の基礎英語」の特徴を教えてください。
「小学生の基礎英語」のストーリーは、日本の小学生にできるだけ身近な「あるある場面」をテーマとして扱っています。まず基本のチャンクを設定し、入れ替えられる部分がどこかを決めていきます。ストーリーにはかならずオチがあり、児童たちが、その入れ替えられる部分を考えて、面白いオチをつくるという構成になっています。それはキソサポのコンテンツでも同じことがいえます。この部分が実に面白いといつも感じています。
■キソサポのコンテンツをどう使うと効果的だと思いますか?
「小学生の基礎英語」の動画を使いながら、英語でも日本語でもOKなので、教室でオチを考える機会を設けてみてください。子どもの自由な発想が飛び交う時間となるでしょう。日本語を英語に直してくれるALTの存在があれば、子どもたちは本当に言いたい自分の表現を身に付けていくでしょう。
具体的には例えば、朝学習に毎回ストーリーを聴かせましょう。まず先生が少し日本語で背景を言います。「今回はアイクがお医者さんで花音ちゃんが患者さんだよ。」のような一言で良いと思います。時間があれば、ストーリーは数回聴かせると効果的です。1回目は全体を最初から最後まで聴かせます。2回目はポイントとなる単語やフレーズを確認しながら聞かせます。3回目聞かせたあとで「どんな英語がききとれたかな?」と児童に聴きながら、ターゲットチャンクを確認します。
基本のチャンクを使った会話文を作って、児童がペアで会話を楽しむこともできます。また、What~do you like?というチャンクであれば、What animal do you like? What food do you like?など、いろいろ調査して、クラスの傾向をグラフで表す等の言語活動に繋げることもできますね。
他にも、自宅で学習させるのもよいでしょう。児童が自分でサイトに入りストーリーを楽しみ、その後のクイズに答えます。教室で答え合わせをしてもよいでしょう。
先生方にメッセージをお願いします
児童たちが触れるチャンクは数が大事です。そして、チャンクは場面と密接に結びついています。なので、さまざまなチャンクに触れてもらうとともに、それらのチャンクをこんな場面で使えるってことを教えることが大事になってきます。そうすることで児童の中でチャンクの機能がより明確になってきます。すると「こんな場面でこのチャンクを使ってみよう!」という動機付けにもつながりますし、自然と口から英語が出てくるようになるんです。
「キソサポ」を活用することで「自分が本当に言いたいことが言えた!」という児童たちの体験に繋がることができたら嬉しいです。
居村啓子
拓殖大学外国語学部教授。専門は応用言語学、早期英語教育。
研究テーマは「子どもがチャンク(かたまり)で習得した英語表現がその後どのように分解されるか」。
『英語で日本を紹介しよう』(ポプラ社)の監修、
『「Welcome to Tokyo」Elementary』(東京都教育委員会)の英語監修などもつとめる。
※記事公開時点の情報です。